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治療の原則

2型糖尿病は自覚症状に乏しいことが多いのですが、症状の有無にかかわらず適切な治療が必要です。

治療の第1の目的は、糖尿病の代謝異常に伴って起こってくる種々の合併症の発生を予防することです。そのうえで、健康な人と変わらない生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保することが最終的な目標になります。

糖尿病は慢性の病気で、完全に治ることはほとんどありません。定期的な受診をまず心がけましょう。治療の中断は、慢性合併症を起こしやすくする大きな原因になります。

2型糖尿病は、食べすぎ、運動不足、ストレスなどの生活習慣(ライフスタイル)の乱れと、その結果起こってくる肥満が、その発症および病態に強く関係していると考えられています。これらは主にインスリンのはたらきを悪くし、血糖上昇などの代謝異常を招きます。

したがって、通常の2型糖尿病の治療としてまず行うのは、食事療法、運動療法を含めたライフスタイルの改善、および肥満がある場合にはその解消です。それで不十分な場合に薬物療法が追加されます。

また、ライフスタイルの改善のためには、患者さん自身が糖尿病をよく理解し、進んで治療を継続する意欲をもつことが重要です。そのために行われる糖尿病教室、糖尿病の教育入院などの糖尿病患者教育も、糖尿病の治療に大切な役割をもっています。

血糖コントロールの指標としては、HbA1Cと空腹時および食後の血糖値を用い、目標値は一般には表10の優または良を目指すようにします。さらに、体重、血圧、血清脂質値(コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールなど)についても、良好な数字に近づけるようにします。

 

食事療法

食事療法は、糖尿病治療の基本です。不十分な食事療法のもとでの薬物に依存した治療では、肥満などを助長し、糖尿病の血管合併症を予防できません。逆に、しっかりとした食事療法と運動療法を行うと、診断されてまもない2型糖尿病の約半数の人は薬物療法の必要もなく、血糖値を良好にコントロールできます。

食事療法を実施すると、エネルギーの摂取量が減少するので、血糖値を下げるために必要なインスリンの量を減らすことができます。さらに、肥満も解消されてインスリンのはたらきをよくすることもできます。

◯食事のしかた

食事療法の原則は、適正なエネルギー量とバランスのとれた栄養素配分です。糖尿病食は病人食ではなく健康食といえるものです。さらに、食事の回数・時間・配分エネルギーも重要で、なるべく3食均等に規則正しく摂食することが望ましい姿です。

とくに朝食を抜いてエネルギー制限を行うことは、昼食、夕食の摂取量が増加し、その後の血糖値上昇、肥満を招きやすいのでよくありません。また、早食いもよくありません。食べすぎにつながりやすく、血糖値も上がりやすいからです。よくかんでゆっくり食べましょう。

◯エネルギー量

1日の適正なエネルギー量は、年齢、性別、肥満度、身体活動量、合併症の有無などを参考に決められます。

おおよそのエネルギー量は、患者さんの標準体重を算出し(肥満症を参照)、標準体重に身体活動量(表11)をかけて求めます。肥満の人や高齢者などは少なめに、成長期にある若年者などは多めにします。

通常、エネルギー量は、男性では1400~2000kcal、女性では1200~1600kcalの範囲となり、極端に少ないわけではありません。

◯栄養素の配分

栄養素の配分は、糖質(炭水化物)55~60%、蛋白質15~20%、脂肪25%となります。この配分は、最近の日本食の配分とほぼ一致しており、そのため日本食は健康食として世界中から注目されています。

全栄養素の半分強を炭水化物からとります。糖尿病だからといって、炭水化物を極端に制限するわけではないことに注意してください。

蛋白質は、標準体重1kgあたりほぼ1gをとります。腎障害のある人には、早期から0・8g程度に制限することがすすめられています。

脂肪はエネルギーが高いので、とりすぎに注意して、植物性の比率を多くします。また、脂肪の種類により血糖値や血中脂質値に及ぼす影響に違いはありますが、エネルギー量は同じであることに注意してください。

食物繊維は、食べ物の消化吸収を遅らせたりするので血糖値、血中脂質値の上昇を改善させる効果があり、また便秘の改善にも有効ですから、多くとるようにします(野菜として300g以上)。

塩分は、過剰に摂取すると血圧を上昇させたりするので10g以下、高血圧や腎障害のある人は6g以下にします。

◯外食、中食

最近は、外食やファストフード、あるいはコンビニエンスストア、スーパーなどの弁当・総菜(中食なかしょく)で食事をすますことも多くなってきました。そのため、よりいっそうエネルギー量や栄養バランスに注意する必要があります。

一般的に外食や中食はエネルギーが高く、脂肪、炭水化物が過剰で野菜が足りない傾向にあるので、一部を食べ残してサラダを追加するなどの工夫が大切です。サラダには、エネルギーが高いマヨネーズや油を使ったドレッシングはつけないようにします。

◯甘いもの

お菓子、ジャム、清涼飲料水、缶コーヒー、スポーツドリンクなどは砂糖を多く含み、血糖値や中性脂肪値が上昇するのでとらないようにします。せんべいなど、甘くないお菓子でも炭水化物が多いので注意しましょう。なお、「カロリーオフ」「低カロリー」の飲料は100mlあたり、エネルギー量で20kcal以下、炭水化物は2・5g以下が表示基準であるため、大量にとれば摂取エネルギーが増し、血糖が上昇することに注意してください。

果物はビタミン、ミネラル、食物繊維の補給によいのですが、とりすぎると含まれる果糖などにより血糖値が上昇するので、1日に1単位(80kcal)とします。

代用甘味料は、どうしても甘いものがほしい時に使用しますが、甘いものをとるという習慣を助長するので少量にとどめておいたほうがよいでしょう。

空腹感が強い場合は、コンニャク、海藻、昆布、タケノコ、キノコ類など、低カロリーの食品をとるとよいでしょう。

◯アルコール

アルコール飲料は、つまみやアルコールによる食欲亢進作用によって食事療法が乱れる原因になるだけでなく、肥満、脂質異常症、肝障害、膵炎すいえんの原因ともなるので、原則的には制限し、合併症や肝障害のある人は禁酒するようにします。

◯健康食品・トクホ

消費者の健康志向の高まりに伴い、健康食品の市場が拡大しています。糖尿病に関してもさまざまな「いわゆる健康食品」がその効果を喧伝けんでんしていますが、そのほとんどは有効性・安全性の科学的根拠に問題があり、時には含まれている違法な成分により、重大な健康被害を起こすこともあります。

特定保健用食品(通称トクホ)は「いわゆる健康食品」とは異なり、その有効性・安全性が厚生労働省により認可された食品です。糖尿病の患者さんにとって気になりそうな「食後の血糖値の上昇を緩やかにする」などと「血糖値」に言及するトクホも少なくありません。しかしながら、トクホは糖尿病の患者さんを利用対象者としておらず、その効果もかなり限定的であり、一般的に高価であることなどにも注意する必要があります。

 

運動療法

運動療法は、糖尿病治療のもうひとつの基本です。運動には、食事療法とともにエネルギーの摂取・消費のバランスを改善するとともに、インスリンのはたらきをよくする効果があります。

適切な運動は、ブドウ糖が筋肉の細胞内に入って血糖値を低下させるとともに、高血圧、脂質異常症も改善する効果があります。結果として動脈硬化を予防し、脳梗塞、心筋梗塞などが起こりにくくします。また、心肺機能、筋力を維持・改善させ、健康感および生活の質(QOL)を改善する効果も期待できます。

□運動療法を始める前に

運動療法を始めるにあたっては、主治医と相談することが必要です。血糖値が極端に高い場合は、運動後にかえって血糖値が上がる場合があります。

心肺疾患を合併している場合や、合併症が進行している場合は運動を制限あるいは禁止したほうがよいでしょう。とくに、狭心症や心筋梗塞を合併している場合、増殖網膜症で新鮮な眼底出血がある場合、腎症で腎機能低下がある場合は注意が必要です。

神経障害については、高度であれば運動を制限したほうがよいのですが、軽度の末梢神経障害であればさしつかえありません。

□運動の種目

運動療法が許可された場合、実際に行う運動としては、日常生活のなかで、いつでもどこでも一人でもできる運動がすすめられます。

歩行(ウォーキング)が最適ですが、ジョギング、体操、階段昇降などでもけっこうです。整形外科的疾患で足や腰が悪い場合は、水中ウォーキング、自転車、椅子に座っての運動などがおすすめです。

運動の種類としては、酸素を取り入れながら持続的に行う有酸素運動(ウォーキングなど前述の運動)を行いましょう。これは脂肪を燃焼させる効果などがあり、短距離走、筋力トレーニングなどの無酸素運動より適しています。

□運動の強さ

ややきついと感じる程度以下の運動とします。脈拍を目安にして、毎分110~130拍以下とします。

手順としては、軽い運動から始めて徐々に増やすようにします。日常生活のなかで運動量を増やすのが実際的です。たとえば、家事の時間を増やしたり、通勤の時になるべく歩いたり、エレベーターをやめて階段を使ったりするとよいでしょう。

そのうえで、運動が不足している場合には、散歩などを定期的に行うようにします。慣れてきたら、少し速く歩くようにします(ウォーキングあるいは速歩)。

□運動の時間

脂肪を燃焼させて代謝を改善させるためには、ウォーキングでは1回15分以上で、1日合計30~60分、週に3回以上行うことが望まれます。

歩数計を使用するのもよい方法です。1日7000歩、できれば1万歩を目標にします。最近は消費エネルギーが出るカロリー・カウンターも市販されているので、200kcal以上を目標にします。

□その他の注意点

インスリンや糖尿病ののみ薬を服用している場合、運動する時は低血糖の用心のため、ブドウ糖、砂糖、ビスケット、ジュースなどを必ず携帯するようにして、運動はなるべく食後1~2時間に行うようにします。

空腹時に行う場合は、運動量に合わせて、運動前後あるいは運動中に補食をとるようにします。

さらに、運動に適した衣服、靴を選び、運動前後で靴ずれなどが生じていないかをチェックすること(フットケア)も重要です。

 

薬物療法

食事・運動療法は、効果が出るまでに時間がかかることがあります。十分な食事・運動療法を2~3カ月行っても、良好な血糖コントロールが得られない場合は、薬物療法で血糖値の改善を図ります。高血糖が持続すると糖尿病の合併症が起こってきます。血糖値が下がらないのに薬物療法を先延ばしにするのはよくありません。

糖尿病の治療薬(血糖降下薬)には、のみ薬(経口薬)と注射薬(インスリン製剤)があります。通常、2型糖尿病ではのみ薬から開始します。血糖降下薬を服用中は、その効果と副作用のチェックのため、定期的な通院と検査が必要です。

薬剤で糖尿病自体が治るわけではありません。薬の有効性を維持し、肥満を防ぐために、食事・運動療法の継続が大切です。

なお、糖尿病に効果があるとする民間薬、食品がいろいろ販売されていますが、実際に効果があるものは少なく、怪しいものには手を出さないのが賢明です。

 

低血糖について

低血糖とは、血液中のブドウ糖が極端に減ってしまった状態です(70~50mgdl以下)。

血液中のブドウ糖は、体のなかのいろいろな組織でエネルギーとして利用されますが、とくに脳はブドウ糖の欠乏に敏感で、機能低下を起こします。大切な脳を守るため、体のなかには低血糖を防ぐ仕組みが備わっており、血糖値が正常範囲より低下すると交感神経の活動が高まります。

血糖降下薬やインスリンを使用していない場合は、交感神経のはたらきで肝臓などに貯蔵されていたブドウ糖が血中に放出されて血糖値は正常にもどります。しかし、血糖降下薬やインスリンを使用している場合は、血糖値が下がりすぎて脳の活動が低下し、頭痛、集中力の低下、意識障害が起こってくることがあります。

低血糖が起こる原因としては、薬の量が多すぎた場合もありますが、適切な量の薬を使用している場合でも食事が少なかったり、運動量が多かったりすると低血糖に陥る可能性があります。

低血糖を予防するためには、薬物治療中の人は食事量を守り、運動時には適切な補食をとることが必要です。さらに、ブドウ糖、砂糖、ジュースなどを携帯し、交感神経症状である冷や汗、動悸どうき、手の震えなどの症状や強い空腹感、脱力感が起こってきた時はすぐに摂取するようにします。

がまんすることは禁物です。とくに、自動車の運転時は注意する必要があります。車内に必ずブドウ糖、ジュースなどを常備し、おかしい時には車を安全な位置に停車させて摂取するようにしてください。